人生設計

竜崎との手錠生活も数日が過ぎたが、月は危ういところで自らの貞操を守っていた。
寝ようとしているところにじゃれつく竜崎を押しのけながら、話題を掏り替える。
「竜崎はずっと、三つの顔を使って犯罪者を捕まえてきたんだよな」
竜崎はしぶとく月の脚にしがみついている。不本意ではあるが、その手であちこち
探られるよりはましだと思い、黙認することにした。随分と竜崎に譲歩している自分を
月は認めないようにしているのだが。
「ええ。しかし、キラは私が今まで追った中でも最大最悪の犯罪者です」
月の腿に頬を寄せ、顔を見上げる竜崎。月がキラであるという疑いは、まだ捨てていないらしい。

「これが終わったら、どうするんだ? また探偵を続けるのか?」
竜崎はL、ドヌーブ、エラルド=コイルという、世界最高峰の探偵三人を演じてきたという。
「ええ、一生をそうやって過ごすでしょう。それが私の生きがいです。
 …ですが、ここにきて人生設計に狂いが生じてしまいました」
深くため息をつき、月の腿にぎゅっと抱きついて顔を押し付ける。そして黙り込んでしまった。

「…? 一体どうしたんだ」
こんなしおらしい竜崎など見たことがない。月は若干ながら、狼狽していた。
「ある場所で、私の後継者となるべき人物が育てられているのですが…
 彼らの成長を待ち、やがて共に犯罪捜査を行うつもりでした。
 ところが、私は夜神月という人物に出会ってしまった」
突然自分の名が出てきたことに、虚を突かれた月。思わず眉を寄せる。

「新しい人生設計はこうです。夜神月を公私ともに最高のパートナーとして、
 犯罪捜査をしながら愛をはぐくめる場所を造ります」
一瞬の間の後、月の表情が呆れ顔へと変わっていく。
「月くんには私のおやつを用意する仕事もやってもらいます。私としてはギャルソンルックで
 いてもらいたいのですが、スーツやカジュアルがよいというなら、それでもかまいません。
 どうせ脱がします」
淀みなく語る竜崎。月はもはや、口をはさむこともできない。
「ワタリがいて、月くんがいて、私たちの後継者がいる。犯罪者を捕まえる。
 そしてお菓子がいっぱい。最高です」
竜崎は陶然とした表情で天井を仰ぐ。一方、月の肩は怒りにぶるぶると震えていた。
「月くんどうですか、ワタリからパティシエの訓練を受ける気は」
その先は、叩きつけられた枕によって遮られた。

「…」
したたかに打たれた鼻をさすりながら、枕をじっと見る竜崎。
「これは、こういう事ですか?」
竜崎は月から離れると、もう一つのベッドに二つ、枕を並べた。
月は目覚まし時計を投げつけようとしたのを、やっとの事で踏みとどまる。

怒りは静まらないが、もういいとそっぽを向く。
「枕なしで寝るんですか?」
無視。
「…膝枕をしろという、遠まわしな要求ですね?」
「違うっ!」
思わず全力で時計を投げてしまった。目覚まし時計は竜崎の横を飛び、壁に当たって
バラバラに壊れた。歯車がころころと転がる。しまった、と月は後悔した。
「あーあ。壊してしまいましたか」
お前のせいだ、と心の中で罵る。

「でも大丈夫です。私が7時きっかりに起こします。キスで」
もう突っ込む気力も無い。どうにでもなれ、と捨て鉢な月であった。

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