葛葉ライドウ対アバドン王 小ネタ其ノ弐

[由緒正しき健康法]
とあるビルヂングの屋上にて、老人が日だまりの中くつろいでいた。雑踏の活気が風に乗って運ばれ、平和を満喫しているのだという実感を与えてくれる。隣では学生服の少年が黒猫とねこじゃらしで戯れている。なんとも心暖まる風景である。普通ならば。
「あぁ、なんだか肩が凝ったのぉ、誰か揉んでくれんかのぉ」
「…」
少年は老人を顧みることもせず、無言のまま。
「腰も痛いのぉ、さすってもらったら楽になるんじゃが」
「…」
さらなる無言。黒猫がねこじゃらしに前脚を叩きつけようとして、ひょいと逃げられる。
「最近の若者は年寄りに冷たいのぉ…」
その一言にため息をつき、ようやく少年―――第十四代目葛葉ライドウは老人に向き直った。ねこじゃらしを突きつけて言い放つ。
「どこが肩でどこが腰だ、このセクハラ爺」
そう、普通と違うのは、その老人が緑色の、成人の身の丈を越えようかという超特大男性器にしか見えないということである。
「“グッとキクところ”がそうなんじゃよ」
「爽やかに言うな」
ぶるぶると身を震わせ答えた、その老人の名はマーラ。かなり格の高い邪神のはずなのだが、どこからどう見ても男性器である。さらにわさわさ触手を生やし、金色のチャリオットを乗り回すパワーアップぶり。ご立派様と言われるだけのことはある。

「…マーラよ」
声音はそのままで、ライドウの口元が酷薄な笑みを浮かべる。
「なんじゃ?」
「自称・愛の伝導師こと変態ダークサマナーによれば、加熱と冷却を交互に繰り返すと良いらしい」
「ほえほえ、それは古風なアレじゃな」
「というわけで、後は加熱担当ジャックランタンと冷却担当ジャックフロストに任せることにしよう」
「とんだ汚れ仕事だホ!」
「おいらたちのましょーを見せてやるホ!」
“可憐な外見に反してえげつない”と評判のジャックブラザーズ、やる気まんまんである。

「ついでにトゥルダクの蛮力マッサージもあるぞ」
「キサマァァァ! 歩く猥褻物陳列罪かァァァ! …む!? 違うぞ!? うぉ前は歩く猥褻物だァァァ!! ココか!? ココがイイんだなァァァ!」
「おお、こりゃ老人には刺激が、おほぉ…!」

青空の下、のたうちまわるご立派様。一歩引いて眺めるライドウに黒猫・ゴウトが問う。
「どうした」
「あまりの情けなさに涙も出ない」
「…誰もが通る道だ」
ぽむ、と偉大なる先達に猫の手で慰められる。平行世界の自分はどんな目にあったのだろうか、と思いをはせるライドウであった。

ちなみにお仕置きの理由はというと、聞き込み捜査の際にマーラしか外法属の仲魔がおらず、悪魔や同業者相手に片っぱしからセクハラ行為を営んだためだったとかなんとか。

○ ● ○ ● ○

[あなたに足りないのはさらなる強さとコレ]

まさに果ての無い、内側に閉じた荒野―――ボルテクス界。ほの青いカグツチの光が、遮る物なく降り注ぐ。砂塵の中、人修羅一行は悪魔の群れと対峙していた。
緊張を破り第一手を打ったのは、人修羅の隣に立つ、黒ずくめの少年だった。鈍く輝く金属の管を懐から差し出す。その先から緑の閃光がほとばしり、彼の仲魔が顕現した。聖書と天秤を携えた天使、ドミニオン。悪魔召喚師・葛葉ライドウの命を受け、呪文を唱え始める。敵に逃げる間も与えず、幾重もの風の刃が放たれた。断末魔の叫びが高く響き、後に残るは静寂のみ。実に鮮やかな使役の手腕だった。
悪魔が塵となって消えるのを見届けると、ドミニオンは得意そうに翼を羽ばたかせた。ふわり、と衣がそよぐ。後方からそれを見ていた人修羅の眉間に皺が寄る。
「…もしかしてあいつ、生足?」
声をひそめてライドウに問う。およそ場違いな質問ではあるが、人修羅とて元・思春期の男子。ボルテクス界にすっかり馴染んでしまった今、見慣れたビキニ・ボンテージ・フンドシマントより法衣からのぞくふくらはぎの方が刺激が強い。
「察しの通り」
「………こんな事言うのもアレだけどさあ、裾めくれ過ぎじゃないか?」
それが男性型でも反応してしまうのが悲しいサガだ。
「安心しろ、鉄壁だ。“CERO C指定 15才以上対象”だからな」
「年齢制限そこ!?」
「神の先兵にしてチラリズムの境地。我々は試されているのだろうか」
「考えすぎ考えすぎ」
すっとぼけたライドウの発言に、人修羅の突っ込みも慣れたものである。

「あの、どうかしましたか…?」
見ればドミニオンが困った顔で二人を見ている。
「「何でもない」」
人修羅と悪魔召喚師、二人のチームワークは確実に向上しているようだ。

→あとがき
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