雲無し邪気無しのどかな日。探偵社のデスクの上で瞑想していると、ガタガタと騒がしくドアが開いた。
「なんだゴウト、今日は一人か?」
どっさりと買い物袋を抱えた鳴海。また舶来の妙な食材でも買ってきたのだろうか。扱いに困る度、ライドウがこっそり仲魔会議を開いていることを教えてやったほうがいいかもしれん。
「まあ犬じゃなし、いつも一緒でもないか…っていうかそこ俺の机なんですけど」
面倒臭いのでぱたぱたと尾で答える。ここは“今まさに”一番陽の当たりがいいので明け渡す気などさらさら無い。
それを鳴海の奴め、調子に乗りおって。
「いいけどね…じゃ、ちょっと失礼するかな」
もふっ。
…なんたる屈辱! ヒトの体に顔をうずめるとは! 遠慮は無用、ザックリひっかいてやろうと思ったところで。
「あー、もう…俺ってばどうして…」
情けない声を上げながら、ぐりぐりと顔を押し付けてくる。情けないのはいつもの事だが、どこか様子が違う。…それを無視できるほど、自分は猫の体になじんでいなかったようだ。
一声、細く鳴く。“大丈夫か?”と。
顔を上げた鳴海に、両手でがしっと顔を挟まれる。正直に言うとかなり嫌な触られ方なのだが、動くに動けない。
真っ直ぐに我の目を見つめて告げる。
「…ライドウ、好きだ」
…
……
………!?
「…本当にダメだな、俺。ごめんなゴウト、猫だからってこんなこと言って」
我の混乱をよそに、鳴海は手を放すと、ばしばしと自分の頬を叩いた。つまりそのもじゃもじゃ頭は、我が人語を解すことを知らないわけであって。つまり、我の耳はロバの耳…ではなく地面の穴なのか。
我が論理の筋道を模索している間にも、窓枠にもたれかかる鳴海の目は遠くを見て。
「どうしたらいいんだろねぇ…」
こっちのセリフだ!
物憂げに呟く鳴海を一蹴り、外に躍り出た。まったく、お役目も楽じゃない。