迷子 クーフーリンの場合

「…ここにもいない…か」
期待するほど、落胆は大きくなる。異界の花と同じ青紫の瞳が憂いの色に陰る。白銀の鎧をまとい魔槍ゲイボルグを携えた騎士、クーフーリン。
「お師範様、我が主はいずこに…」
そこはヒトの世の裏側、異界・深川町。

召喚され管から飛び出したはずが、目に見えぬ力に弾き飛ばされてしまった。気がつけばライドウの姿はなく、はぐれてしまったのだと知った。あちこち歩き回ったもののライドウとは出会えず、この空間の出入口と龍穴がある空き地に戻って来たのだった。
拠点であるこの空き地にライドウが戻ってくる可能性は高い。しかしライドウたちが他の区域に移動していたとしたら、自分には行き先の見当もつかない。

現実世界の探偵社に向かうべきだろうか。…確かにそこで待っていればいずれ会えるだろう。だがもし、ライドウが傷つき倒れていたら? この瞬間も難敵と戦っているとしたら? 自分のせいで彼が苦しむなど、決してあってはならない。そんな事は許せない。 彼の槍となり盾となろうと誓ったというのに、この体たらく。そばにいれば護れるのに。

…護れる? いや、違う。“護りたい”のだ。彼を。彼がいなくては、自分は―――

もう一度捜しに行こう。待ってなどいられない。挫けそうな心に鞭を打ち、駆け出そうとした。
「やっぱりここにいたか」
天啓の如き声に息を飲む。
「ラ、ライドウ殿…?」
捜し求めていた、黒ずくめの主人の姿がそこにあった。
「冷静なクーフーリンのことだから、迷子になったらここに戻ってくるだろうと思った」
再会の喜びに浸るどころか、迷子と言われて頭に血が昇る。
「い、言っておくが、我は迷子になどなっておらん!」
「そうか」
滑り出てしまった言葉に後悔する間もなく。
「風の通り道を間違えてしまってな。遅くなってすまなかった」
穏やかな声音が胸の隙間に嵌まり込む。ああ、どうしてこの人は、私の強がりをいとも簡単に受けとめてくれるのか。
顔が熱い。多分真っ赤に染まっているのだろう。主の顔をまともに見られない。
「クーフーリン、こっち向け」
マントを引っ張られる。
「わ、我は…」
「いいから、ほら」
柔らかいものでそっと目元を拭われた。もう一方も。それがハンカチーフだと気づいた瞬間には、ひったくるようにして奪い取っていた。そうしてから、言葉に迷う。
「…これは、その………洗って、返す」
洗濯なんてするのか、とライドウが笑った。取り返される前にハンカチーフをしまい込む。それを見たライドウがまた、涼やかに微笑む。
「ゴウトが待ってる。行くぞ」
二人、並んで歩みだす。師範様に会えたら話したいことが、また一つ増えてしまった。

→あとがき
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