溶かす雨

闇の中、目を開く。時はとうに夜半を過ぎて、ライドウは眠れずにいた。

一日寝ないだけで鈍るような頭と体ではない。横になれれば充分。要はさっさと“処理”すればいいだけの話なのだが。
ただ、困ったことに今は隣にアマツミカボシがいる。ライドウの寝巻きを勝手に着て、髪をほどいて、同じ布団に入っている。自分の背の側から、片腕がライドウの体に回されていた。嫌なわけではなく、気になってしょうがないのだ。それでも向かいあってないだけましだろうか。まったく、どうしてこんな事になったのか。うまく割り切れない気持ちが、もやもやと渦を巻く。
「ん…」
アマツミカボシが身じろいだ。ライドウの首筋に顔を寄せ、より密着する。反射的に体を強張らせてしまう。

ややあって、溜息が一つ。
「…起きてるんだろ」
返事の代わりに、ライドウを抱く力が強まる。うなじに口付けを落とされる。
体を硬直させた主に、今度はアマツミカボシの溜息が一つ。
「私でよろしければ、何でもいたしますのに」
背徳への誘い。
「だから、そういうのは、もっと後の…」
アマツミカボシの指がライドウの腹から首元まで滑る。
「これでは生殺しではありませんか」
「…俺は蛙か何かか?」
アマツミカボシの手を振りほどこうとして、逆に指を絡められる。
「ならば私は蛇らしく振る舞うとしましょう」
冷たい唇がライドウの耳たぶをはむ。
「おい、待てっ、俺は…」
アマツミカボシの手を乱暴に振り払うことで、爆発的に膨れ上がる欲求をごまかす。離れたライドウを、アマツミカボシはそれ以上追わなかった。追われないから、逃げられない。
「“俺は”…?」
青銅の髪が一筋、はだけた胸元に流れる。ライドウは目を離すことができなかった。
「…気持ちの準備というものが、その…お前にそんなことさせるのも…」
「“そんなこと”がどんなことであっても」
アマツミカボシの手がライドウの手を包む。
「ライドウ殿が私を頼ってくれるなら、それに勝る喜びなどありません」
髪と同じ青銅色の瞳が潤んでいる。
「何より、私自身が望んでいるのです」

正座から少し脚を開いた姿勢で、ライドウは寝台の上に座った。その後ろにアマツミカボシが寄り添う。あれこれ言い合った末に、こういう体勢になったのだ。
「あなたの顔が見えないなんて、もったいない」
「…うるさい」
悪態と共に夜着の帯を解き、滑り落とす。下帯は既に張り詰めて、その存在を主張していた。それを自分で剥いだのは、せめてものの抵抗。半ば勃ち上がったものが、空気と視線に晒される。 すぐそれに触れることはせず、アマツミカボシはライドウを背後から抱きしめた。

腿から、腹、胸へアマツミカボシの指が這う。淡い色の突起を、壊れやすい花の芽を扱うかのように撫でる。同時に唇と舌で、耳と首が責められる。
「…っ!…はっ…」
他人の体を知らないライドウにとって、それは拷問にも等しかった。 自分の嬌声に耐えられず、手の平で口を塞ぐ。もう片方の手でアマツミカボシの責めを妨げようとするも、とても抑えられるものではなかった。
「ねえ、苦しいですか?」
ライドウは答えない。答える余裕が無かった。
「もっと苦しんでください」
「何を…」
アマツミカボシの指がライドウ自身へ伸びる。強く張ったそれは指の愛撫であっけなく果てた。酸欠の体が、ぐらりと後ろに傾く。アマツミカボシに体を預け、ライドウは余韻の波がその身を去るのを待つことしかできなかった。

受け止めた白濁と、ライドウ自身に絡んでいた透明な液を掬い、アマツミカボシはそれを弄んでいた手を離した。ライドウは未だその動きに気付いていない。

「くっ…」
アマツミカボシの微かな呻き声。
「ミカボシ…?」
まだ焦点の定まらない目で、名を呼ぶ。
「…見ないで、まだ…」
水音。アマツミカボシは自ら後孔に指を差し入れ、解きほぐそうとしていた。
「ん…くぅ…」
「お前、何を…?」

アマツミカボシはライドウを布団の上に押し倒した。疲労と不安の表情を浮かべるライドウを、アマツミカボシは愛おしそうに見つめる。
「言ったでしょう、苦しんでくださいと」
ライドウがその言葉を理解する前に、アマツミカボシの指がライドウのものを掴む。 一度達して萎えたそれを右手で繰りながら、仰向けのライドウに跨がる。自らほぐした部分へと導き、やがてその中心に腰を沈めていった。
「やめっ…そんなの、駄目だっ…!」
抵抗の言葉を吐くも、止める力は無い。アマツミカボシの柔らかい部分が強引に押し広げられ、ライドウを飲み込んでいく。わずかずつ進む度に、熱い息が漏れる。痛みがアマツミカボシを止めることはなかった。やがて、褐色の肌と白の肌が、隙間なく重なる。
体温の低いアマツミカボシの体でも、その内側には僅かな熱があった。ライドウの理性に反して、自身は存在感を増していく。
「ふふ…綺麗で、いやらしい人…」
途切れ途切れの声が、ライドウの意識を捕らえて離さない。そむけた眼から、涙がこぼれた。

アマツミカボシとて、男のものを受け入れるのは初めてであった。熱い杭に内側から焼かれる。だが痛みより、その体を駆け巡る甘い疼き、ライドウを独占する喜びに酔いしれていた。
ライドウのもので自らをえぐるように、その形を確かめるように、腰を動かす。始めはぎこちなかったのが、まるでロウが溶けていくように滑らかに、そして激しくなっていく。青銅色の髪を振り乱すその面に浮かぶのは、苦悶と愉悦。

限界は、先にライドウの方に迫って来た。
「離せ…出るっ…!」
「…嫌です…絶対に、離しません」
アマツミカボシの中で、ライドウは二度目の絶頂を迎えた。それに続いて、アマツミカボシも精を放つ。

ライドウのものを引き抜くと、アマツミカボシの浅黒い内股をほの白い雫が伝わる。その光景が心の奥底に植えられるのを感じながら、ライドウは体を寄せてきた恋人を抱きしめた。

→あとがき
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