触れる距離
―――ヤバい。
自分の怪我を治療している男の顔を、フリオニールは直視できずにいた。
フリオニールら三人がフィンの反乱軍に加わって、もうだいぶ経つ。
今は白魔導師ミンウと行動を共にしているが、彼の戦いぶりを見ると自分たちが
まだまだ未熟であることを思い知らされる。
故郷を失ったあの日、戦う術など持っていなかった。だが今度こそ大切な人々を
守らなければならない。フリオニールたちはより強い力を渇望していた。
ともあれ、一行は街で小休止し、次の行き先への準備をしていた。まずは宿で部屋を取り、
ミンウがそれぞれの体を調べ、傷があれば治癒の呪文をかけた。たとえ小さな傷でも、
毒を浴びたりすれば危険だという。全く無鉄砲だ、とミンウに怒られた。
疲労の度合いが強かったマリアとガイを先に済ませ、最後にフリオニールの番が来た。
すっかり元気になった二人はこまごました物の調達に出かけてしまったので、部屋には
ミンウとフリオニールの二人だけが残された。
二人きりの空間は嬉しいはずなのに、フリオニールは息苦しさを感じていた。
声が、体が、近い。いつもより強く打つ胸の音が彼に聞こえてしまいそうで怖い。
白布で隠された唇。柔らかなローブに包まれた肩と腰。ミンウと出会って以来ずっと、
フリオニールは彼の姿にくらくらと惑わされ続けていた。色香というには清楚すぎて、凜とした魅力に。
そんな感情は初めてのもので、こうして間近に本人がいるとどうにかなってしまいそうだ。
「どうした? まだどこか―――」
ミンウの指がフリオニールの頬へと伸びる。不意をつかれたフリオニールは
その手を反射的に払ってしまった。
「あっ…」
彼の存在を意識しすぎるが故に。
だが、ミンウはそう考えはしなかったようだ。
一瞬目をみはったかと思うと、すぐに表情を曇らせてしまった。
「…すまない。何か悪い事をしてしまったようだな」
ミンウは寂しげな表情のまま、立ち去ろうと背を向けた。
違う。そうじゃない。行かないでくれ。
言葉は湧いてくるのに、声にならない。
気がつけば、ミンウの体をしっかりと抱き留めていた。
「フリオニール…!?」
その体は想像していた通りに華奢で、温かくて。それから、フリオニールの知らない香りがした。
ミンウはというと、突然のことに困惑していたようだが、やがて体の力を抜いてフリオニールに
体重をあずけてきた。
「…少し苦しいな」
「え、あ、ごめん」
フリオニールは腕を緩めると、やっと自分のしていることに気付いて顔を真っ赤に染めた。
ミンウは何も言わず、フリオニールの手に自らの手を重ねる。
こんなにも高鳴っている鼓動は、この人に伝わっているだろうか?